売買や相続により、不動産の所有者や権利関係に変更があった場合には登記をすることが多いです。いうまでもなく、登記をするか否かはその方の任意ですが、登記をした方が後々便利なようで、こんな事例がありました。
相続登記を放っておくと・・・
売買の時に登記をしないことは滅多にないですが、相続登記をなさらない方は結構多いようです。理由は費用がかかるからです。確かにごもっともな理由です。
しかし、例えば祖母の相続登記を省略したまま父が亡くなり、父の相続時にも登記を省略。こんな状況で孫の代になって売却話が持ち上がりました。実態はこの孫が相続をしたものの登記簿上の名義は祖母のまま。祖母名義のこの状況の下では売買の移転登記はできません。なぜならば祖母が実在しないからです。祖母から父、父から孫への連続した登記が必要となります。相続税の対象となる場合、財産分けで揉めてさえいなければ、登記変更はしていなくても分割協議書はあるはずです。
この分割協議が終わっていれば、救いはありますが、分割協議がない場合には問題となってきます。今から分割協議書を作成しなければなりません。そして、いったん分割協議により父名義にした後で、今度は父の分割協議書の作成です。この名義変更の作業、実は祖母の相続人が既に亡くなって、その子の子が替わりというケースも多く、今から全員のハンコを貰うのは至難のわざ。場合によっては相続人全員を捜し出すだけで一苦労、なんてこともあり得ます。
実務上は20年以上経過している場合、登記官の判断で原則通りのことが要求されるわけではないようですが、未登記を放置しておくと、規定上は上記のような大変な状況になることが必至です。
相続後の手続きとは
相続後の手続きとは、具体的には分割協議や遺言に従って、被相続人から相続人へ名義変更する手続きを言います。預貯金や株券等の書き換えの費用が微々たるものから、ゴルフ会員権や不動産登記のように、それなりの負担を覚悟しなければならないものまで多種多様あります。
名義変更手続きには、基本的には各相続人がその財産を相続する権利があることを証明するものが必要です。通常は分割協議書や遺言書ですが、相続人全員の実印があれば、銀行のように、名義変更ができるものもあります。
実際の名義変更手続きは・・・
前述のような、相続による名義変更の手続きは、本来は厳格に行われるべきものです。なぜなら、手続きが省略され、厳格さを欠けば、それは責任問題になってしまう場合があるからです。
例えば銀行所定の手続き書類に相続人全員の署名、押印、印鑑証明がなく、一部不足があった場合があります。こんな状態で特定の相続人に名義変更をしてしまい、後日、それが発覚して他の相続人から文句が出ることも想定されます。当然銀行は責任を問われることになるでしょう。
現実問題としてこんな事例がありました。ある方の母が亡くなったときのことです。財産と言える程のものは何もなく、兄弟間で遺産分割協議書を作成するまでもなかったのです。
死後、暫くして遺品を整理してみると、少額ではありますが郵便局に簡易保険と定期貯金があったのです。当時、その方の弟は海外にいたため、弟の承諾を取るのは手続き的に煩雑でした。事後承諾でいいだろうと勝手に判断して郵便局に相談です。
町の小さな郵便局ではありますが、本来の手続きの説明後、なんと悪魔の囁きが、「弟さんの分は、どなたかが替わりに署名して頂ければ結構ですよ。」しかも、実印ではなく認印です。金額も決して多くはありませんでしたが、それでも100万円単位です。これでは、単なる早い者勝ちではないでしょうか。
遺言があれば安心か?
相続人間での分割協議については問題になることが予想されるため、事前に遺言書を作成した事例ではこんなことがありました。
遺留分の侵害がないよう注意して遺言書を作成し、準備は万端整っていました。いざ相続が開始され、遺言執行者である長男は、遺言内容を各相続人に知らせました。法的には何の問題がない遺言であったため、長男も名義変更の手続きをすぐにしませんでした。相続登記をすぐにしないのはよくあることで珍しいことではありませんが、長い間登記をしないでおくと、後日支障があることも事実です。それに、登記をすれば登録免許税の負担も覚悟しなければなりません。
それはともかく、紳士的かつ公正に他の相続人に遺言の存在と内容を知らしめたのです。結果的にはこれがあだになりました。長男がある土地を遺言に従って自分の名義に登記する前に、他の相続人である弟が法定相続分によって、自分の持分に対し、抵当権を設定していたのです。
どういう事かと言うと、登記所は遺言によって登記がされる前までは、当然のことですが遺言の存在を知りません。その段階は登記所から見ると、いってみれば分割されていない状態、つまり、相続人の法定相続分による共有状態なのです。3人兄弟が相続人なら3分の1ずつの共有です。ここで、その内の1人が自分の持分の3分の1については、売却することも、抵当権を設定することも可能なのです。
なぜこのような事をするかといえば、言うまでもなく、次男から長男に対する嫌がらせ、遺言執行に対する妨害です。結果的には事なきを得ましたが、この持分を売買してしまうと、法律的には非常に面倒な状態になってしまいます。身内とは言え、相続人も恨み辛みが高じて、何をするか分かりません。
遺言があれば、他の相続人のことなど考えずに即登記すべきです。遺言がなければ、更に注意して財産探しと名義変更をするべきです。登記とは絶対に必要なものではありませんが、後々問題になることも多々あります。登記費用をケチッたつもりが、かえって余計な費用が生じるケースもありそうです。特に相続時の登記費用(登録免許税)は通常の売買に比して優遇され、また、不動産取得税の対象にもなりません。ぜひ、登記はお早めに!