平成22年度税制改正大綱から見えてくる今後の相続税改革の方向性
2010年3月26日
このメルマガでも数回に分けてご紹介したように、平成22年度の税制改正大綱では、相続税の節税対策封じとなる改正がピンポイントで盛り込まれました。「小規模宅地等の評価減の特例」や「定期金の権利の評価」等に関する改正です。しかし、これは民主党政権による相続税の大改革のスタートに過ぎません。大綱の中には、来年以降の相続税改革の構想として次のような記述がはっきりと載っています。
相続税は格差是正の観点から、非常に重要な税です。バブル期の地価急騰に伴い、相続税の対象者が急激に広がったことなどから、基礎控除の引上げや小規模宅地等の課税の特例の拡充により、対象者を抑制する等の改正が行われました。バブル崩壊後、地価が下落したにもかかわらず、基礎控除の引下げ等は行われてきませんでした。そのため、相続税は100 人に4人しか負担しない構造となり、最高税率の引下げを含む税率構造の緩和も行われてきた結果、再分配機能が果たせているとは言えません。また、金融資産の増加などの環境の変化が見られます。
今後、格差是正の観点から、相続税の課税ベース、税率構造の見直しについて平成23 年度改正を目指します。その見直しに当たっては、我が国社会の安定や活力に不可欠な中堅資産家層の育成や事業の円滑な承継等に配慮しつつ、本人の努力とは関係のない大きな格差が固定化しない社会の構築や課税の公平性に配慮すべきです。
さらに、相続税の課税方式の見直しに併せて、現役世代への生前贈与による財産の有効活用などの視点を含めて、贈与税のあり方も見直していく必要があります。
また、法人等を利用した租税回避への対応など、課税の適正化の観点からの見直しを引き続き行っていきます。
政府の考え方の根本には、『相続税の課税対象者が現行ではあまりにも少な過ぎる』という思いがあるようです。昭和63年12月改正前の相続税の基礎控除額は、【2,000万円+400万円×法定相続人の数】でした。相続人が配偶者と子供2人(計3人)なら控除額は3,200万円です。バブル期の地価は現在よりも遥かに高かったため、一般のサラリーマン家庭でも、ちょっと路線価が高い場所にマイホームでも持っていれば相続税がかかりました。当時相続税を負担していたのは100人に8人弱。『相続税破産』という言葉も度々耳にしました。
これではさすがに国民生活に影響が及び過ぎるということで、その後数回の税制改正を経て、現在では基礎控除額も【5,000万円+1,000万円×法定相続人の数】となりました。相続人3人なら8,000万円が相続税課税のボーダーラインとなったわけです。相続税評価額で8,000万円ですから、実際には時価1億円程度の財産までは相続税ゼロだと考えていいでしょう。また、累進税率カーブも当時より緩和されるように改められ、更に最高税率も75%から50%に引き下げられたのです。
ところが、バブル崩壊で地価が大幅に下がった結果、今では相続税負担者は100人のうちわずか4人です。バブル期の地価高騰を受けての基礎控除額引き上げや税率改定だったわけですから、地価が下がった今、そろそろ元に戻す時期だと言われても仕方ない面はあるでしょう。
予想される最も大きな改革は、『課税方式の変更』です。相続税の課税方式には、大別すると2種類あります。亡くなった方の遺産に着目して課税する『遺産課税方式』と、各相続人が取得した財産に着目する『遺産取得課税方式』です。過去、我が国では何度か課税方式の変更が行われ、現在は遺産取得課税方式をベースにしつつ遺産課税方式の要素も取り入れた折衷方式(『法定相続分課税方式』)が採用されています。
民主党は、これを『遺産課税方式』へ変更しようと目論んでいます。亡くなった方の遺産額に応じて直接課税をし、残った財産を相続人で分けるという方式です。従って、『相続人が何人いるか』や『各相続人が具体的に何を幾ら取得したか』は基本的に税額とは無関係となります。
遺産課税方式になると、まず基礎控除額の考え方が変わると予想されます。今までのように法定相続人の数によって控除額が増減するという制度は廃止・変更せざるを得ません。『相続人が何人いるか』は関係無くなるわけですから、今後は相続人が何人いても控除額は同額になります。
また、配偶者が相続した財産については一定額までは税金がかからない『配偶者の税額軽減』制度も無くなる可能性が出てきます。遺産課税方式では、相続税を支払った後の財産を相続人で分けるのですから、配偶者がその後何を幾ら相続しようと税額は変わらないからです。
同じように、『小規模宅地等の評価減の特例』も根本から変わります。この特例は、配偶者が相続するなら減額しましょう、事業を継続する人が相続するなら減額しましょう、といった制度です。しかし、誰が何を相続するかは税額とは無関係になるわけですから、この特例は成り立たなくなります。更に、相続人の人数が関係なくなるということは、『死亡保険金の非課税枠』や『死亡退職金の非課税枠』(現行ではいずれも『500万円×法定相続人の数』の非課税枠有り)も廃止・変更の可能性大と言えるでしょう。
これらの廃止・変更が果たして現在の国民感情として受け入れられるのかは甚だ疑問ですが、事実、昭和24年以前に採用されていた遺産課税方式の下では、基礎控除額は相続人の数とは無関係でしたし、配偶者の税額軽減等の制度もありませんでした。
政府は、100人に4人という現状の課税割合を倍くらいにしたいようです。基礎控除額は引き下げられ、課税方式も遺産課税に切り替えられます。一般サラリーマン家庭であっても、相続税の課税対象となる方が増えるでしょう。そうなると、富裕層の相続税負担を今のまま据え置けば必ず不公平感が生じますので、富裕層には今以上の税金を課すことになります。つまり、累進税率の強化です。もし最高税率が以前のように75%位まで上がると、一定以上の資産家は相当大変です。資産家とは言え、財産の大部分は不動産で現預金はあまり持っていないという方が結構います。バブルの頃なら土地は高値で、しかもすぐ売れましたから、納税のための土地売却という手段が使えました。しかし、今は土地も思うように売れません。仕方ないから物納にしようかと思っても、要件が厳しいために物納もできないケースが大半です。つまり、そのような資産家は納税資金の捻出が難しくなります。
来年以降の相続税の改正内容次第では、これまでやってきた相続対策を根本的に見直さなければなりません。改正の具体案が出てくるのはまだまだこれからですが、注視していく必要がありそうです。











